小説

【掌編小説】どうかあなたが世界を救い続けてくれますように

どうかあなたが世界を救い続けてくれますように

『どうかあなたが世界を救い続けてくれますように』作・橋本長道(2019年3月12日)

創作時の手法→「掌編小説」「世界の終わり」というテーマで縛ってアイデア出しを行った。

1.目覚め

あなたは目を覚ますと見慣れない部屋にいる。どこかから聞き慣れない音楽が流れてくる。あなたは懐かしさを覚えるが曲名は出てこない。

あなたはふと何もかも忘れてしまっていることに気付く。ここがどこなのか、自分が誰なのか、男なのか、女なのか、どうやって生計を立てているのか、何のために生きているのか――何ひとつわからない。

2.名前

『タピオカ』

突然、あなたの脳裏に文字が浮かび上がる。「タピオカ」。それがあなたの名前なのだ。なんと適当でけったいな名前なのだろう。名付けた人間のセンスを疑ってしまう。

あなたは改めて部屋を見回し、周囲の物品を漁り始める。あなたは書机の引き出しから一通の手紙を見つける。「タピオカへ」と文字が見える。やはりあなたはタピオカなのだ。あなたは名前を与えられ、安心感を覚える。名前がないことほど恐ろしいことはない。名前がなければ、世界もない。深い闇の中に閉ざされたまま。しかし、手紙の文字はにじんでいてそれ以上読み取ることができない。

あなたはあっさりと諦め家捜しを続ける。

3.選択肢

あなたは部屋の隅で「光る小石」を見つける。内側から仄かに発光している小石で神秘的な力が感じられる。あなたは何も考えることなく石をポケットにしまいこむ。あなたは部屋の中を歩きまわるが、やがて新しい情報を得ることができなくなる。

あなたはドアを開けて部屋を出る。隣にも部屋があったが鍵がかかっていて「今は」入ることができない。あなたは階段を降りていく。一階にもいくつか部屋が並んでいるが「今は」入ることができない。

あなたが一階のドアを開けると外につながっている。数歩進むと脳裏に選択肢が浮かび上がる。

中央広場
商店
酒屋(closed)
教会
武闘場(closed)
街の入り口

4.会話

あなたは中央広場に向かう。中央広場に何人か人がいるのを見つけあなたは安堵感を覚える。誰もいない世界だとしたらどうしよう――という心配は遠くに消え失せる。あなたは立ち話をしている二人の女性に話しかける。

手前の女性は言う。
「最近、『賢者の森』の近くに魔物が出るそうよ」
奥の女性は言う。
「こわい、こわい。このままじゃ、街から出ることはできないわね」
あなたは驚いて、詳しく話を聞き出そうとする。

手前の女性は言う。
「回復するためには薬草を使うといいわ」
奥の女性は言う。
「毒状態になると毒消しが必要になるの」

突然関係ないことを話し始める彼女たちにあなたは戸惑ってしまう。あなたはもう一度彼女たちに話しかけるが、二人は同じことしか言わない。あなたは恐怖を覚え、その場を立ち去ってしまう。

あなたは噴水の前にいる老人に話しかける。
「魔王が蘇るとき、同時に勇者が現れるのだという。それは70年前のこと・・・・・・」
あなたは話が長くなりそうな予感がし、老人から遠ざかろうとするが、スキップすることができない。結局、あなたはよくわからない奇妙な伝説を長々と聞かされてしまう。あなたは少々うんざりする。

「またそういう話か」

私達はあなたの声が聞こえてきたような気がして背筋が寒くなる。
あなたは中央広場を出て、教会へと歩いていく。私達はほっと胸をなで下ろす。

5.教会

あなたは『教会』でシスターにあなたが勇者であることを仄めかされる。シスターは断言しない。ただ、ものすごく仄めかすのだ。勇者であると仄めかされて嫌がる人はいない――というのが私達の調査結果だ。

シスターは『聖女の泉』で『聖女の雫』をもらってきて欲しいという依頼と共に『檜の杖』を与えてくれる。死の可能性のある危険な依頼だが、シスターはそのことに言及しない。私達は陰で彼女のことを「サイコパス」と呼んで笑いものにしている。あなたは何の疑問も抱かず『檜の杖』を授かり、依頼を受けてしまう。

『檜の杖』は魔法の威力を増す性質を持つが、鈍器としても優れている。あなたは長さ1メートルはあろうかという『檜の杖』をポケットにしまう。『檜の杖』はポケットからはみ出すことなくしかる場所に収まる。

あなたは『街の入り口』に向かう。『街の入り口』からは『聖女の泉』につながる『賢者の森』へ行くことができる。

――なぜ早く『檜の杖』を装備しないのか。

私達は『枯れた木の棒』を装備し続けるあなたの脳天気さにやきもきしてしまう。あなたの体力と攻撃力では『枯れた木の棒』を装備している限り、最下級の魔物に対してすら苦戦する。『檜の杖』さえ装備すれば『賢者の森』の主以外は簡単に倒すことができる。

最近のあなた方は敗北を嫌い、死を忌み嫌うという調査結果がある。私達はあなた方にスムーズに戦いを進めてもらうために『教会』に強力な武器を置いたのだ。

6.賢者の森

あなたは『枯れた木の棒』を持ったまま『賢者の森』を真っ直ぐに進み始める。

――なんて馬鹿なんだ!

私達は叫びたくなる。

あなたは初めての魔物『ゴングリ』と遭遇する。『ゴングリ』は頭の部分に笠のようなものが付いており、木の実に似た魔物だ。私達の下請けが「ゴブリン」+「ドングリ」から案を起こしたものである。

あなたは『枯れた木の棒』を振るうが、足下がおぼつかなく、慣れていないので『ゴングリ』には当たらない。そのうち『ゴングリ』の「頭突き」があなたにヒットする。一撃で死ぬことはないが、5回当たると死んでしまう。あなたは一度戻って体勢を立て直すというような社会人として当然の判断ができず、ただ闇雲に『枯れた木の棒』を振り回し続ける。
私達は見ていることができず、顔を背けてしまう。

私達はこんな愚鈍なカスタマーを想定していなかった。

悲しげな音楽が流れる。画面を見なくてもわかる。あなたは死んだのだ。舌打ちと、あなたが床を殴り付ける音が聞こえてくるような気がする。そして私達はさらに恐ろしいことに気付いてしまう。

あなたはセーブをしていない。

7.祈り

あなたは再びあの部屋で目を覚まし、中央広場で話を聞き、教会で依頼を受けなければならない。会話をスキップする機能は実装されていない。10数分かかるであろう一度通り過ぎた退屈なやりとりを、あなたはもう一度こなしてくれるだろうか?

あなたは世界を救わなければならない。私達はあなた方が飽きないように世界を救わせ続けなければならない。やがて画面は暗転し、あなたは私達の世界から興味を失ってしまう。しかし、口コミと売り上げさえあれば、世界は滅びることなく続いていくだろう。

私達にできることは祈ることぐらいだ。

どうかあなたが世界を救い続けてくれますように――。

(電源OFF/世界の終わり)

後記

日記更新のかわりに、掌編小説や習作小説を掲載することもあります。小説家としての修業、リハビリテーションってな位置づけですね。

本作は二人称に見せかけて実は――という作意のもの。アイデアに拠った作品の場合、市場に出すには編集者達に輪読してもらって致命的な先行作がないかを調べてもらう必要があります。本作のような趣向は先行作があるような気がするので、習作にとどめています。

偶然よい短編が書けてしまったら、noteに掲載するなり、改稿して編集者に見せるなりしていこうかと考えています。


↑筆者のデビュー作