将棋

将棋時代漫画という新しい試み「宗桂~飛翔の譜~1」

宗桂 ~飛翔の譜~ 1 (乱コミックス)」のご献本をいただいたので、メモ的に感想を書いてみます。

「宗桂~飛翔の譜~」の書籍情報

書籍情報は以下のとおり。

タイトル:宗桂 ~飛翔の譜~
漫画:星野泰視
監修:渡辺明
出版社:リイド社
連載:コミック乱ツインズ
第1巻初版発売:平成31年3月19日

漫画家の星野泰視先生は、僕にとっては「哲也~雀聖と呼ばれた男~」の作画担当として強く印象に残っています。少年誌で賭け麻雀を題材にして成功したのって本当の画期的だったんですよ!

監修の渡辺明先生は押しも押されぬ将棋の二冠王。漫画にも造詣が深く、本書を見てもわかるように名ばかり監修ではなく、かなり深いところまでコミットされています。

時代将棋漫画という新しい試み

現在、漫画界では将棋を題材とした作品が空前のブームとなっています。いやほんと毎月のように連載が始まっているような気がするんですよ。将棋漫画が少ない頃は「天才少年がライバル達と競い合い名人を目指す」という王道作品が主流でしたが、変化球も増えてきている印象。これはジャンルの成熟として非常に喜ばしいことです。

本作「宗桂~飛翔の譜~」は「将棋時代漫画(将棋歴史漫画)」。廃刊になった週刊将棋などの専門紙で将棋時代漫画が描かれることはありましたが、ドストレートに一般誌で――というのは記憶にありません。(調べたら過去にあったりするのかな?要出典

ジャンル選択としては冒険的ですが、実績のあるベテラン漫画家、時代を画する棋士による監修、時代漫画専門誌掲載――ということで商業として勝ちにきている布陣となっています。

将軍家将棋指南役と僕のコラム

本作の主人公は「九代大橋宗桂(1744~1799)」です。江戸時代は結構長いので徳川将軍が誰だったかで見るのがわかりやすいでしょう。青年九代宗桂が活躍し始めるのは、十代将軍家治の時代です。家治は歴代の中でも特に将棋を愛した将軍でした。

時代は上がりますが僕も「将棋家」に関するコラムを書いています。

江戸時代、二人の天才少年の命を懸けた対局があった――現代によみがえる300年前の「棋譜」ねとらぼアンサー

このコラムと「将棋指す獣感想」を見た編集者の方が本作を送ってくださったので、「ねとらぼ強し!」って感じですね。(ねとらぼでの記事化を狙うなら、僕よりも担当編集に献本したほうがいいかな――というのはあります。ライターがキーマンになっていることもあれば、編集者がキーマンになっていることもあるのです

僕は初代から宗銀・印達の時代あたりまでは資料を集め目を通していたのですが、九代宗桂の時代までは深く調べていなかったので「宗桂~飛翔の譜~」の物語は新鮮でした。

物語の形式、敵役・脇役作りのうまさ

第1巻は一話完結でお話を作りながら、大きな物語への伏線を張っている――という感じでした。一話、一話にエンタメとしての盛り上がりを作る手法は手慣れたものです。

男前で将棋の強い「九代宗桂」の「バディ役」として三枚目で将棋が弱い田沼意次の息子「田沼勝助」が置かれています。哲也ファンとしては、哲也に対するダンチを思い出しますね。ベタな置き方ではあるのですが、エンタメの手法として超効果的なんですよ。勝助が背負ってきた問題を宗桂が将棋で解決する――。前半は敵役(悪役)のフェーズで個性と強さをこれでもかと見せつけ、後半に宗桂がやつけることで爽快感を生んでいます。

星野先生は個性的な敵役・脇役を作るのが上手いですよね。

渡辺二冠のコミットメント

本作のもうひとつ特徴は「監修の渡辺二冠のコミットメントがすごい」というものです。目にみえるものとしては、作品内で使われている棋譜の作成と1話ごとに書かれている2ページのコラムがあります。

第1巻には5話収録されているので、渡辺二冠のコラムが5本入っています。分量、書きぶりからしても渡辺二冠がこの連載に力を入れていることがうかがえます。

巻末の星野先生の1ページ漫画によると「毎回の打ち合わせに出席!!」「漫画に使用した棋譜は全て正真正銘渡辺先生の創作!!」「漫画内の盤面セリフ等のチェック!!」「リプ早い!!」「当単行本にもコラム5本寄稿!!」「etc!!」と渡辺二冠のコミットに関して触れられています。

名ばかり監修者ではなく、がっつりコミットメントですね。

感想戦

漫画の評価って難しいんです。「将棋指す獣感想」を書いた時にも感じたのですが、クリエイターとして「プロとして一線で活躍している人達の作品を上から目線で評価できるだけの我はありや?」ってなるのです。

僕が取り上げる作品は、既に一定の水準を超えているものになります。漫画・小説・映画・アニメなどの創作物に関しては、くさす感じの評論はしない方針です。(その他のものは結構強く批判しますけどね)

一定の水準を超えていれば後は好みになるのかな~と思います。

たとえば「将棋指す獣」は一話の段階ではそんなに好みではありませんでしたが、連載を重ねるにつれてどんどん好きになってきています。「将棋指す獣」原作者の左藤先生の「アイアンバディ」も一巻の時は登場人物を好きになれなくて、巻を重ねるにつれて好きになっていった覚えがあります。一巻の時点で評価を出すのって難しいんですよ。

「宗桂」は一巻の時点でかなりまとまっています。これは、一話一話での完結性が強いっていうのも理由になっているのでしょう。心配点としては、二巻以降で今よりも面白くなっていくのだろうか――というのがあります。ま、これはクリエイターに常に求められるプレッシャーですよね。

「宗桂」は完成度が高く、好ましい作品――というのが僕の現時点での評価です。

 

参考文献

「将棋文化史」(山本亨介/筑摩書房)
「将軍家「将棋指南役」将棋宗家十二代の「大橋家文書」を読む」(増川宏一/洋泉社)

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「小説すばる新人賞」受賞の筆者の将棋小説