今回は全駒に関する思い出を語ります
全駒って何?
将棋用語に「全駒」という言葉があるのをご存じでしょうか?
全駒(ゼンゴマ)
対局相手の玉以外の駒を全て取ること
↑全駒の局面例
将棋は駒を全て取ってしまう前に、相手玉を簡単に詰まし、勝ちを確定できるゲームなので、全駒はマナー違反と考えられます。相手をいたぶっている、舐めているということになるのですね。(まぁ、投了しないほうも投了しないほうですが・・・・・・)
投了とは?
自ら負けを認めて宣言すること。詰みなどの終了条件を満たさなくても、投了によって勝負が決まりそこで終局となる。
一方、チェスでは全駒の局面は頻出します。相手の駒を全部取ったとしても、引き分けになるケースがあるのですね。(ステイルメイト)
戦いが進むに連れ駒が減っていくチェスと、取った駒を再利用できる将棋の違いです。
リアルの対局で全駒をすると、相手が相手なら殴られても仕方のないところがあるので、やるならハム将棋ぐらいにしておきましょう。
F君は全駒だけではなく・・・・・・
F君のこと
これは僕が小学生の頃の話です。
同じ将棋道場に通っていた子供の中に、F君という子がいました。
F君は1つか2つ年上で、将棋も僕より1段ぐらい強かったという記憶があります。
F君は口が悪く、馴れ馴れしく、憎たらしい子供でしたが僕は嫌いではありませんでした。小中学生の頃の将棋のライバルって多かれ少なかれみんなそんな感じですからね。
ライバルで戦友だからこそ、軽口を叩き合う――というのがあるのです。
ある日、道場の手合いでF君と指した時、僕は敗勢になってしまいました。F君はすぐに決めようとせず、ゆっくりと僕の駒を取っていきます。気がつけば、飛車も角も取られ何もすることができなくなっていました。
それでも僕は投げません。
小中学校の頃は往生際が悪いことに定評があり、クソ粘りの果てに逆転勝ちすることも多かったのです。
「はよ投げろや!」
「絶対に投げない!」
という意地がぶつかり合った時、勝っているほうに全駒をしようという動機が生まれます。F君も僕を屈服させるために全駒を目指してきました。
完全初形全駒
ただ、F君は独創性溢れる子供。単純な全駒は目指しません。
F君が目指したのは・・・・・・。
↑F君が目指した局面
完全初形全駒!
だったのです。
お前は内藤國雄かっ!
初形と処刑のかけことばでもあり、舐めプの最上級の形ですね。
初形とは?
初期配置のこと。
より詳しく書けば、F君が目指したのは「攻め方完全実戦初形全駒」ということになる
唯一で必殺の狙い筋
F君の壮大なる目標が明らかになった後でも、僕は投げませんでした。ひとつだけ大逆転の秘策があることに気付いたからです。
そう、「たったひとつの冴えたやりかた」を思いついたのです。
↑この作者は難解作も多い印象ですが、表題の「たったひとつの冴えたやりかた」は比較的ストレート&考えさせられる&感動的なのでおさえておきたいところ
完全実戦初形を作るためには、かなりの手数が必要で、両者ノータイムで駒を動かしていくことになります。駒を動かして時計を押すだけの機械って感じですね。
上図はほとんどの駒を取られてしまっていてどうしようもありません。ただ、勘の鋭い人はこの時点で僕がどうやって勝ったかに気付くかもしれません。
僕は渾身のブラフで▲5三金と打ちました。両者早指しの中、目立ってはいけないのです。大きな駒音を立ててはいけないし、かといってこっそり置くと逆に勘づかれてしまいます。一定のリズムを守りながら、相手に意識されないように指さねばならないのです!
F君もまさか相手がこの局面から逆転勝ちを狙っているとは気付きません。△8二飛と完全実戦初形に向けての着実な一手を指してきました。
そして・・・・・・
▲4三桂!
↑吊るし桂の詰み形。相手が居玉の時は狙ってみよう!
F君は固まってしまいました。なんとこれで詰んでいるのです。F君は「負けました」と小さく告げて席を立ちました。
この話から
・舐めプをしていると痛い目に遭う
・勝負は諦めなければ、逆転のチャンスがある
・こんなしょうもないことをしているからどっちもプロになれなかったんだ
・吊るし桂の詰み筋を覚えよう!
といった教訓が引き出せるのかもしれません。
僕自身は思い出してみて、ただただ子供時代が懐かしくなったのでした。
おしまい!
本の紹介:
↑安藤たかゆき先生(@kumotoradayo )の将棋エッセイコミック。将棋を始めたばかりの方には共感を、上級者には懐かしさを感じさせる素敵さがあります!
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